
東京、2025年4月21日
「縛りが上手くなるには、何が必要ですか?」よく生徒たちからこんな質問を受けます。漠然とした質問ではありますが、それに対する“よく言われる答え”があります。
「縛りは技術じゃない、パートナーとのつながりだ。」
確かにある程度経験を積んだ人には響く言葉かもしれません。しかし、初心者にとっては、真に受けすぎると危うい面もあります。理由は二つ。まず第一に、この言葉が「安全性」の重要さを曖昧にしてしまうこと。安全な縛りとは、実は高度な技術の上に成り立っています。第二に、”つながり”を築くためにも実は技術が欠かせないという、ちょっとした矛盾があることです。基本的な技術がしっかりしていればこそ、縛る作業にばかり意識を取られず目の前のパートナーに集中できる。技を体に叩き込んで、初めて意識を人に向ける余裕が生まれるのです。この「今ここ」に意識を置く力こそが、縛りを特別なものにします。
まず理解しておきたいのは、すべての芸術と同じように、縛りも「ハードスキル」と「ソフトスキル」という二つの土台の上に成り立っているということです。
ハードスキルとは、たとえばロープの縛り方、パターンの習得、吊りの力学、解剖学への理解、摩擦やテンションのコントロールなど。これらは論理的に学べるし、練習すれば確実に上達します。時間はかかりますがレッスンやデモンストレーション、ワークショップなどで直接教えられるスキルです。この記事の最後にハードスキルを磨くためのヒントを少しまとめましたので、参考にしてみてください。
ソフトスキルとは、パートナーの観察力、コミュニケーション力、感情認識、責任感など。これらは教科書通りに教えられるものではありません。性格、人生経験、文化背景などによって形作られる部分が大きいからです。共感、忍耐、善意、思いやりといったものは誰かから教わるのではなく、自分で育てていくしかない。人によっては自然に備わっているかもしれませんが、そうでない場合も積極的に「聴くこと」と「内省」を通して育むことができます。こちらもソフトスキル向上のためのヒントを最後にまとめています。
ハードスキルとソフトスキル、どちらか一方だけに偏るとたいてい痛い目を見ます。実際、経験を積むうちに縛りにおいてはこの二つが密接に絡み合っていることに気づきました。技術が滑らかに、そして自動的にできるようになると、心に余裕が生まれ、観察力や存在感が高まります。それによって、新たな細部や微調整の可能性、より深い体験を共有するためのチャンスに気づけるようになります。そして、そうした気づきの一つひとつが、新たな挑戦や技術の洗練へとつながっていくのです。
つまり、「技術」と「つながり」を対立させるのはそもそも間違った前提なんです。
きっと経験豊かな縛り手なら誰でもこの循環を感じているでしょう。そして同時にこの循環には「罠」もあることも知っているはず。技術だけに酔って、目の前の人間を忘れてしまうこと。あるいは、つながりを重視するあまり安全性や構造をおろそかにしてしまうこと。 私自身、今も「技術」と「つながり」両方を意識して育て続けています。そして思うのです――この循環はきっと終わることがない、と。
さて、「縛りが上手くなるにはどうすればいいですか?」という問いへの答えですが、私はこう言いたい。「練習あるのみ!」ひたすら体に技術を叩き込み、自動操縦のようにロープを扱えるようになったとき、初めてパートナーに全神経を向けられるようになります。
そしてそのとき、あの言葉 ――「縛りは技術ではない、つながりだ。」が、本当に自分のものになるのです。
ルイ・コーデックス

TIPS
この記事の締めくくりに、私なりの経験をもとにハードスキルとソフトスキルを磨くためのヒントをまとめました。あくまで一例ですが、参考になれば幸いです。
縛りのハードスキルを磨く
- 縛りのパターンを覚え、無意識レベルでできるまで練習する。
- 時間を計りながらタイムアタックをしてみる。スピード練習は、ロープの流れと正確さを養います。素早く確実に縛る練習をすると、あとでゆっくり縛るとき、動きがよりクリアに、シンプルに感じられ、パートナーへの意識にも余裕が生まれます。
- イメトレを活用する。目を閉じて、心の中で縛りの手順を反復する(電車移動中や待ち時間などにオススメ)。
- 自分の縛りを撮影して、ロープの流れ、手の使い方、パートナーの反応などを観察する。
- 解剖学を学ぶ。自分の体で神経や敏感な部位を探し、触れたり、つまんだり、軽く押してみてください。それだけで、相手がどんな感覚を抱くのか、とてもシンプルに理解できるはずです。
- 経験のある人に自分を縛ってもらう。自分の手の動きが他人にどんな影響を与えるのか(気持ちよさも痛みも)それを直接体で感じることは、とても大切です。
縛りのソフトスキルを育てる
- ボディランゲージを学び、パートナーの心身の変化を読み取る力を養う。
- 雑談スキルを大切にする。何気ない会話は信頼を生み、空気を和らげ、身体の状態や不安、期待を詮索せずに感じ取る手がかりになります。
- 呼吸の変化、声のトーン、手足の色や温度、表情、汗の出方などに目を向ける。それらはすべて、パートナーが何を感じているかを可視化してくれるサインです。
- 相手の反応にしっかり注意を払う。沈黙さえもメッセージです。首筋が縄に委ねられるなら、それは快のサインかもしれません。肩が強張っていれば、逆の可能性もあります。
- セッションの前に、自分に小さな「ミッション」を与えてみましょう。たとえば「目を閉じてくれるくらいリラックスしてもらいたい」「自分にもたれてくれるくらい安心してほしい」など。その結果がどうだったか? 何が助けになり、何が妨げになったのか?終わったあとに振り返ってみましょう。
- セッション後は、率直なフィードバックの時間をとる。良かったこと、うまくいかなかったこと、今後改善できそうな点などを話し合ってみてください。
- そして、自分自身がどう感じたかも思い出してみてください。自分の感覚は多くの場合、相手の感覚と鏡のように呼応しているはずです。
